広田照幸「第六章 学校の役割を再考する—職業教育主義を超えて—」

神野直彦・宮本太郎編『自壊社会からの脱却—もう一つの日本への構想』所収。


近年の筆者らしい(学校)教育全体を概観し、それ自体あるいはその周辺部分に関する意味付けを整理する内容。


筆者は「教育の福音」イデオロギーのもと、職業教育主義が近年の教育改革論議の中心であることを指摘した上で、その限界と問題について論じている。


職業教育主義の限界として挙げられているのは、


①教育が経済発展や雇用に及ぼす効果は限定的なものであること
②労働者の側の状況悪化を、不十分な教育や不適切な教育で説明するには限界があること
③教育による労働生産性の上昇という道とは別に、市場の帰省や再分配などたくさんのやれることがある、ということ


の3つであり、問題として挙げられているのは、


①教育の関心が職業準備に過度に傾斜することで、学校教育が本来果たしうる多様な役割を封殺してしまい、教育を歪めてしまうこと
②職業教育主義に沿った学校教育が発展すればするほど、個々人は競争の主体として個人化され、他者への関心や広い世界とのつながりを失っていく、ということ


の2つである。


筆者が危惧しているのは、「よい教育」というものが存在するわけでもないにもかかわらず、職業教育主義に傾倒するあまり、学校教育が一面的なものになってしまうことである。


安易に職業教育に流されず、学校教育の他の側面も考慮して再設計することの必要性を指摘した論文だった。



自壊社会からの脱却――もう一つの日本への構想

自壊社会からの脱却――もう一つの日本への構想