連城三紀彦『戻り川心中』

日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞した表題作を含む5作を掲載した短篇集。

謎が明らかになっていくミステリとしての側面もさることながら、やはり短編それぞれに花を表象として展開される恋愛と叙情の繊細な描写がよい。

もちろん感情がそのまま記述されるということではない。
一見謎に思える行動の背景が明らかになることで、そこに込められている思いを読者は想像することができる。

その一つ一つの謎は決して大きなものではなく、明らかにされることで驚愕することもない。
しかしそのことが一層小説としての叙情を際立たせている。


戻り川心中 (光文社文庫)

戻り川心中 (光文社文庫)