中村高康『大衆化とメリトクラシー――教育選抜をめぐる試験と推薦のパラドクス』
著者の博論を加筆修正したもの。
筆者が指摘する通り、教育と選抜や大学進学を語るときにその対象とされるのは、ほとんどが学力試験・エリート選抜で、大学入学者の3割を超えるらしい推薦入試(AO含む)についてはほとんど論じられてこなかった。
筆者はその推薦入試に焦点をあて、それが教育の大衆化のなかで、メリトクラシーの再帰性による「メリット」の変容と軌を一にして現れてきたものだと論じる。
筆者はエリート選抜とマス選抜という区分を導入するが、前者は依然として学力試験による選抜が主であるのに対し、後者では推薦入試が大きな役割を占めつつあると説く。
ノンエリートに関する研究は最近良くみられるが、教育と選抜研究においては、オリジナリティがあり、面白かった。
個人的に気になったのは2点。
・「メリトクラシーの再帰性」という概念はそれ独自で非常に面白いものなのだけれど、マス選抜との関係性がちょっとわかりにくい。単純に僕の読解力不足かもしれないが。この概念がなくとも、「教育の大衆化」だけで押し切ることもできただろう。ある程度効力は発揮しているんだと思うけれど、この抽象的な議論を持ち込む意義がどの程度あったか。
・マス選抜における選抜の様子について、もう少し知りたかった。確かに5章とか6章で、校内での主に進路指導による選抜状況は描かれているが、大学側の求める学生と生徒のマッチングが試験においてどのように行われているかについて知りたかった。これはほかの著作で書かれていたりするのかな。
なにはともあれ、興味深い本でした。
大衆化とメリトクラシー―教育選抜をめぐる試験と推薦のパラドクス
- 作者: 中村高康
- 出版社/メーカー: 東京大学出版会
- 発売日: 2011/03/25
- メディア: 単行本
- クリック: 32回
- この商品を含むブログ (6件) を見る