三輪哲「計量社会学ワンステップアップ講座(3) 潜在クラスモデル入門」
学会発表をしてきたところ、聞いてくださったらしいI先生から、潜在クラス分析をやってみたらというお言葉をいただき、この論文を紹介して頂いたので、読んでみた。
どうやらカテゴリカルな変数における因子分析、みたいなものらしい。
カテゴリカルな変数を、背後にある観察されない変数にまとめ、それを分析に投入する、といったところ。
自分の分析で用いている変数は全部で3つなので、実際に使えるのかやや微妙かもしれないが、ぜひとも習得して分析してみたい。
末冨芳『教育費の政治経済学』
筆者の博論をまとめたもの。
教育費における、公私の負担構造に着目し、その負担の時系列的推移と変化、「公私混合型教育費負担構造」の出現の原因を検討したもの。
私費負担が増加していることはよく言われているが、実は一人あたりの公費負担も増加してきたこと、前述の構造が私費負担が「過剰」である、という意識から成立したこと、が主な知見であろうか。
4章の教育費スポンサーとしての保護者モデルの分析も面白かった。負担に対する肯定的な意味付け因子全てに消極的な意識を持つ層は、大学が拡大するにつれて増えてきたんだろうな。
そこまで「教育財政学」の独自性に拘る必要があるのだろうか(この研究自体のオリジナリティは主張する必要があるだろうけど)ということと、やっぱり私教育費データベース作成の無理くりさ(これが出色ではあるのだろうけど)がちょっと気になった。
でも教育費や保護者モデルなどについて図を用いてきちんと分類されていて面白かった。
- 作者: 末冨芳
- 出版社/メーカー: 勁草書房
- 発売日: 2010/02/24
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矢野眞和『「習慣病」になったニッポンの大学――18歳主義・卒業主義・親負担主義からの開放――』
教育について考える黄色本シリーズ。
このシリーズを読むのは、広田・伊藤両先生の本、児美川先生の本についで3冊目だが、どの本も自分が勉強になるだけでなく、ほかの人にも読んで欲しい、と思うような本だった。
さて、本著だが、著者の教育に対する経済学的な考え方は、とても参考になる。
いろいろと勉強になったが、上手くまとまらないので、日にちをおいて、再読したい。
「習慣病」になったニッポンの大学―18歳主義・卒業主義・親負担主義からの解放 (どう考える?ニッポンの教育問題)
- 作者: 矢野眞和
- 出版社/メーカー: 日本図書センター
- 発売日: 2011/05/24
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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中村高康『大衆化とメリトクラシー――教育選抜をめぐる試験と推薦のパラドクス』
著者の博論を加筆修正したもの。
筆者が指摘する通り、教育と選抜や大学進学を語るときにその対象とされるのは、ほとんどが学力試験・エリート選抜で、大学入学者の3割を超えるらしい推薦入試(AO含む)についてはほとんど論じられてこなかった。
筆者はその推薦入試に焦点をあて、それが教育の大衆化のなかで、メリトクラシーの再帰性による「メリット」の変容と軌を一にして現れてきたものだと論じる。
筆者はエリート選抜とマス選抜という区分を導入するが、前者は依然として学力試験による選抜が主であるのに対し、後者では推薦入試が大きな役割を占めつつあると説く。
ノンエリートに関する研究は最近良くみられるが、教育と選抜研究においては、オリジナリティがあり、面白かった。
個人的に気になったのは2点。
・「メリトクラシーの再帰性」という概念はそれ独自で非常に面白いものなのだけれど、マス選抜との関係性がちょっとわかりにくい。単純に僕の読解力不足かもしれないが。この概念がなくとも、「教育の大衆化」だけで押し切ることもできただろう。ある程度効力は発揮しているんだと思うけれど、この抽象的な議論を持ち込む意義がどの程度あったか。
・マス選抜における選抜の様子について、もう少し知りたかった。確かに5章とか6章で、校内での主に進路指導による選抜状況は描かれているが、大学側の求める学生と生徒のマッチングが試験においてどのように行われているかについて知りたかった。これはほかの著作で書かれていたりするのかな。
なにはともあれ、興味深い本でした。
大衆化とメリトクラシー―教育選抜をめぐる試験と推薦のパラドクス
- 作者: 中村高康
- 出版社/メーカー: 東京大学出版会
- 発売日: 2011/03/25
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トーマス・マン『魔の山』
ふと思い立って購入。
いわゆるビルドゥングスロマン小説。
セテムブリーニをそれほど好きではないのに(念の為にいっておくと、だからといってナフタに共感するわけではない)、ペーペルコルンが出てきた途端に、セテムブリーニ・ナフタ両氏と共同戦線を張りたくなるのは、自分が理性による「啓蒙」「教育」を根本のところで信じているからだろうか。
マンにとって、WWⅡはこれほどまでに大きなものだったのだろうか、それとも解説者が述べるように、ここで終わらせなければ終わり得ないものだったのだろうか。
- 作者: トーマス・マン,高橋義孝
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1969/02/25
- メディア: 文庫
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- 作者: トーマス・マン,高橋義孝
- 出版社/メーカー: 新潮社
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湯浅誠『どんとこい、貧困!』
よりみちパン!セシリーズ。
子ども向けに書かれた本だが、湯浅さんの基本的な価値観や立ち位置がわかる良書。
メインテーマは貧困で、そこに若者や自己責任論などが絡んでくる感じ。
これらのテーマの問題は、それについて深く考えずに、あるいは知ろうとせずに、自らの経験や身の回りの話だけで語ろうとする人が多いこと。
事実を知ってもらう、あるいは客観視をしてもらうという大事なことをしてもらうために、非常に有用な本だといえる。
もちろん、自己責任論を内面化しがちな若者自身も読むべきだし、当然子どもたちも読んでいて損はない。
この本は一体どれくらいの人々に届いたのだろうか。
- 作者: 湯浅誠,100%ORANGE
- 出版社/メーカー: 理論社
- 発売日: 2009/06/25
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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小谷敏・芳賀学・土井隆義・浅野智彦『〈若者の現在〉政治』
シリーズ本の2作目。
どの論考もあまりこれまでの研究が引用されておらず、かつ過度に分析的でないのは、まさしく〈若者の現在〉を示そうとしたからか。
個人的には辻・藤田論文と中西論文が面白かったかな。
若者の政治性は実はあまり語られず、〈非〉-政治性ばかりが(しかも巷で)語られるが、それは現実を反映した結果ではないだろうというのは想像できる。
若者の〈非〉-政治性ばかりあげつらって「もっと政治的になれ」というのではなく、若者の政治性の変遷(あるいは変わらなさ)を論じることが大事だと思う。
その点に関しては、きちんと配慮されている本だった。